『とくべつなアップルパイ』
「きょうのはちょっと失敗! アレやったら残してね!」
そういって遠慮がちに友人のお母さんが出してくれたのは手作りのアップルパイ。夕ごはんの最後のデザートに、細く切ったパイ生地がアミのようにクロスしてのせられた、アメリカの映画に出てきそうな立派なパイを振る舞ってくれました。アップルパイに目のない私は大喜びで、さっそく大きくひとくち…手作りならではのやさしい味です。生地はバター控えめで、アップルとレーズンのフィリングは甘さをグッと抑えてあります。
「おいしいね!」と隣りに座る友人を見ると、ひたすら黙々とパイを頬ばっています。しばしその横顔をながめていると、友人はふと我に返って、はにかむような笑顔を見せました。
「これ子どものころによく作ってもらったんだよね。なんか久しぶりでさぁ」
遠くを見つめるようなその目は、すっかり子ども時代のそれに戻っていました。その子のおうちでは、誕生日にはお母さんの手作りケーキが定番だったそう。大学から東京に出た彼女は、いまではおいしいケーキ屋さんも、すてきなカフェもいっぱい知っています。でもこのアップルパイは特別。ひとくち一口じっくり味わいながら、何も言わず食べ続けます。一方、目の前のお母さんは
「ちょっとシナモン足りんかった? もうちょっと甘い方がよかったかな?」と心配そうにつぶやきながらも、久々に帰ってきた我が子の食べる様子に何ともうれしそう。母と子はいくつになっても、どんなに離れて暮らしていても、こうやってちゃんとつながってるんだな。アップルパイのおかげで私まで家族に加えてもらったような、温かな旅の夜のことでした。
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