『甘いグリグリ』

 子どものころ、兄が入院をして、祖母の家に2、3日預けられたことがありました。毎週末遊びに行っているところなのに、なぜか平日のそこは少し違って見えます。いつもは賑やかに大勢ひとがいるのに、大きな家に祖母と2人きり、というのが妙に気まずいような…。祖母はいつもと変わらず優しいのに、それが母と離れて過ごす小さな私への気遣いのように感じられて、子どもながらにこちらも気を遣ってしまうのです。
 夕食のとき、料理の得意な祖母は私の好きそうなものをたくさんテーブルに並べてくれました。でも2人だけの食卓の寂しさと緊張から、箸があまり進みません。すると「そうだ、卵のグリグリ作ろうか?」と、すごい名案を思いついたように目を輝かせる祖母。私もつられて目を見開き、大きくうなずきました。卵のグリグリとは炒り卵のこと。母も同じのを作ってくれるけれど、祖母のはとびきり甘くてデザートみたいで、私の大好物だったのです。
 フライパンの横に張りついて、祖母がたくさんの箸を束ねてグリグリ、グリグリ卵を混ぜるのを眺めました。ハナをかすめる甘くやさしい卵の匂い。もうすっかり2人は卵に夢中です。このグリグリ、できあがりはなぜかプリンをのせるような足のあるガラスの器に盛るのがおきまりでした。できたてのふわふわをスプーンでぱくり。うん甘い!いつも「あんまり甘いのはダメ!」という母には内緒です。祖母と私、2人だけのヒミツの味。しずかな夜の甘い甘い思い出の味なのです。